
「本を読む」「スマートフォンでニュースを見る」「書類に名前を書く」――。
私たちが日々何気なく行っているこうした行動には、「文字を読み、理解し、書く」という力が欠かせません。
しかし、この「文字が読める」「文章が書ける」という状態は、決して地球上のすべての人々にとっての当たり前ではありません。
毎年9月8日は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が宣言した「国際識字デー(International Literacy Day)」です。この日は、識字の大切さを広く知ってもらい、世界の識字問題について考えるために定められました。
今回は、国際識字デーの意味や識字が私たちの生活にもたらすもの、そして教育の機会をめぐる世界の課題について考えてみましょう。

国際識字デーとは?
国際識字デー(International Literacy Day)は、毎年9月8日に世界各地で行われる国際的な記念日です。
1965年9月8日に、イランのテヘランで世界の教育関係者が集まる会議が開催されたことを背景に、1966年、ユネスコによって国際識字デーが宣言されました。1967年から、毎年9月8日に国際識字デーの記念行事が行われています。
その目的は、識字の重要性を世界に伝え、識字率の向上や教育機会の拡大について考えることです。
それから半世紀以上にわたり、世界各地で識字能力を高めるための取り組みが続けられています。
「識字」と聞くと、「文字を読んだり書いたりできること」をイメージするかもしれません。
しかし、識字が持つ意味は、それだけではありません。
そもそも「識字」とは?
識字とは、基本的な読み書きの能力を指す言葉です。
文字を読めることで、私たちは本や新聞、インターネットなどから情報を得ることができます。また、文字を書くことで、自分の考えや必要な情報を他者に伝えられます。
このように、時代とともに識字の概念も広がり、大きく進化しました。
かつては基本的な読み書きの能力を指していましたが、現代では情報を理解・活用し、社会生活に参加するための力として、より広く捉えられています。
たとえば、電車の案内を確認する、食品の表示を見る、行政から届いた書類を読む、インターネットで必要な情報を探す――。
こうした日常の行動にも、識字は深く関わっています。
また、数字を理解して活用する「数的能力」や、インターネットなどを適切に利用する「デジタル・リテラシー」など、識字を取り巻く概念も広がっています。
つまり識字とは、単に文字を読めるというだけではなく、必要な情報を理解し、それをもとに考え、社会生活に活用するための基礎となる力なのです。

識字をめぐる世界の現状と課題
現代では、多くの国で教育環境が整えられてきました。
一方で、世界のすべての人が十分な教育を受けられるわけではありません。
貧困や紛争、災害、差別、教育施設や教師の不足など、さまざまな事情によって、学校に通うことが難しい子どもたちがいます。
また、地域によっては、女児や女性が教育を受ける機会を十分に得られないケースもあります。
ユネスコによると、2024年時点で、世界では少なくとも7億3900万人の若者と成人が基本的な識字能力を身につけていないとされています。その約3分の2を女性が占めています。
この問題の背景には、さまざまな社会的・経済的な格差があります。
根強いジェンダー格差
識字能力を身につけていない成人の約3分の2を女性が占めていることからも、教育機会には依然としてジェンダーによる格差が存在していることがわかります。
地域によっては、女性や女児が教育を受けることを制限する社会的・文化的な背景が存在し、学校に通う機会を得にくい場合があります。
複合的な要因による教育機会の喪失
また、極度の貧困や紛争、災害などが重なることで、子どもたちが安全に学べる環境そのものが失われてしまうこともあります。
教育を受けられないことは、単に「勉強する機会が少ない」という問題だけではありません。
読み書きを学ぶ機会が限られることで、将来の仕事や収入を得る機会、必要な情報にアクセスする機会、社会に参加する機会などにも影響する可能性があります。
だからこそ識字の問題は、本人の努力だけで解決できるものではなく、教育環境や社会の仕組みと深く関係する課題として考える必要があります。

デジタル時代における「新しい識字」
私たちが生きる現代において、識字をめぐる課題はさらに広がっています。
紙とペンによる読み書きだけでなく、パソコンやスマートフォンを扱い、インターネット上にあふれる情報から必要なものを探し、内容を理解し、信頼性を見極める「デジタル・リテラシー」も重要になっています。
デジタル化が進む一方で、端末を持っていなかったり、インターネット環境を利用できなかったりすることで、教育や仕事、社会参加などの機会に差が生じる「デジタル・デバイド(情報格差)」も課題となっています。
さらに、インターネット上には膨大な情報があふれているため、単に情報へアクセスできるだけでは十分とはいえません。
何が信頼できる情報なのかを考え、複数の情報を比較しながら判断する力も求められています。
2025年の国際識字デーでは「Promoting literacy in the digital era(デジタル時代の識字を促進する)」がテーマとなり、デジタル時代における識字のあり方が取り上げられました。
一方、2026年は国際識字デーの60周年にあたり、「Literacy for people, the planet and prosperity(人々、地球、繁栄のための識字)」をテーマに、これまでの進展と残された課題、そして変化する社会における識字のあり方が議論されます。
社会が変化するにつれて、「学ぶために必要な力」も変わっていくのです。

「読む・書く」は、未来を選ぶ力になる
私たちが普段、当たり前のように使っている「読む」「書く」という力。
その背景には、教育を受ける機会や、必要な情報にアクセスできる環境があります。
世界には、その当たり前の機会を十分に得られない人たちがいることを、私たちは忘れてはいけません。
識字とは、文字を扱うための技術だけではなく、知識を得て、自分で考え、社会とつながり、自分の未来を選択していくための大切な力です。
9月8日の国際識字デー。
この日をきっかけに、普段何気なく使っている「読む」「書く」という力について、あらためて見つめ直してみませんか。
そして、世界中のすべての人が学ぶ機会を持つことの大切さについて、少しだけ考えてみる。
そんな小さな関心の積み重ねが、誰もが学び、自分らしい未来を選べる社会につながっていくのではないでしょうか。

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