vol.652 2026年7月、 “売れなかった服”はもう捨てられない!?
EUエコデザイン規則(ESPR)が描く循環型ファッションの新基準

column

3days ago

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ファッション業界は今、歴史的な転換点に立っています。

クローゼットの奥に眠る服。
セールが終わると店頭から消える大量の衣類。
私たちは、その“行き先”をどれほど意識してきたでしょうか。
実はこれまで、売れ残った衣類の一部は焼却や廃棄に回されてきました。大量生産・大量消費を前提としたファッション産業の裏側で、「売れなかったものを処分する」という構造が存在していたのです。

「トレンド」という名のもとに、短いサイクルで商品を回転させるビジネスモデルが、法規制という強力なブレーキによって根本から再構築を迫られているのです。

それが、2024年7月にEUで採択された「Ecodesign for Sustainable Products Regulation(エコデザイン規則/ESPR)」です。
この規則に基づき、2026年7月19日から、EU域内で売れ残った衣類や履物の廃棄(埋立ておよび焼却)が原則禁止されます。

これは単なる廃棄禁止措置ではなく、ファッションの在り方そのものを問い直す制度改革です。

ESPRとは何か?

ESPRは、EUの循環型経済(サーキュラーエコノミー)政策の中核を担う新たな規則です。
従来のエコデザイン指令が主に家電製品のエネルギー効率向上を対象としていたのに対し、ESPRは、段階的にほぼすべての製品分野へ対象を拡大する枠組みを定めた規則です。
その目的は、製品の設計段階から環境負荷を抑え、循環型経済を加速させることにあります。
最大の特徴は、「廃棄段階」ではなく設計段階から持続可能性を組み込む点です。

具体的には、製品に対して以下の要素を要求します。
・耐久性と修理のしやすさ:長く着られ、壊れても直せること。
・リサイクル性:廃棄時に素材として再利用しやすい設計であること。
・再生材料の使用:バージン素材(※)への依存を減らすこと。
(※一度も製品として使用・加工されていない、石油や天然鉱物などから直接作られた新品の原料のこと)

さらに、注目すべきは「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」の導入です。製品に付与されたQRコードなどをスキャンすることで、原材料の原産地、化学物質の使用状況、修理方法、リサイクル手順などの情報に瞬時にアクセスできるようになります。これにより、製品の「透明性」が劇的に向上します。

なぜ“繊維製品”が優先対象になったのか

繊維産業は、EUが特に環境負荷の高い分野として位置づけている産業のひとつです。

近年、ファストファッションの拡大により、衣類の生産量は急増しました。その一方で、着用回数は減少傾向にあり、短期間で廃棄される衣類が増えています。欧州では年間数百万トン規模の繊維廃棄物が発生しているともいわれています。

問題は「消費後の廃棄」だけではありません。

売れ残った在庫そのものが処分されるケースも、長年指摘されてきました。
こうした背景を受け、ESPRでは繊維製品を優先カテゴリーとし、まずは「売れ残り製品の廃棄禁止」から着手することになったのです。

「廃棄禁止」の具体的な仕組みと対象

2026年7月以降、EU域内では一定規模以上の大企業に対し、売れ残った繊維製品の廃棄が原則禁止されます。その4年後の2030年には中規模企業へと対象が拡大される計画です。
企業は以下のような対応を迫られます。

・再販売(アウトレット、値下げ販売など)
・寄付
・リユース・リセールへの転用
・リサイクル処理
また、売れ残り製品の数量や処理方法についての情報開示も求められます。

「どれだけ廃棄したのか」が可視化されることで、企業の姿勢が社会から問われる時代へと移行していくのです。
なお、中小企業には一定の猶予措置が設けられており、段階的な適用が予定されています。

問われるビジネスモデル

この規則は、企業の在庫戦略そのものを見直す契機になります。
これまでのように「多めに生産して、売れなければ処分する」というモデルは通用しにくくなります。需要予測の精度向上、小ロット生産、受注生産型への移行など、より計画的な供給体制が求められるでしょう。
同時に、
・リペア(修理)サービス
・レンタルファッション
・リセール事業
・再生素材を活用した商品開発
といった循環型ビジネスの拡大も期待されています。
“売ること”だけでなく、“循環させること”が競争力になる時代が始まろうとしています。

日本や私たちへの影響は?

ESPRはEUの規則ですが、影響は域内にとどまりません。
EU市場に製品を輸出する企業は対応が不可欠であり、グローバルサプライチェーン全体に波及する可能性があります。実際、環境規制はEU発で世界標準になるケースも少なくありません。
つまり、これは遠い海外の話ではなく、日本の企業や消費者にとっても無関係ではないのです。

この規制を「コスト」や「障壁」と捉えるか、あるいは「過剰在庫という無駄を省き、顧客と長く深い関係を築くチャンス」と捉えるか。その視点の差が、これからのファッション業界での勝敗を分けることになるでしょう。

ESPRが示しているのは、単なる廃棄禁止ではありません。
それは、「作って売って終わり」という経済モデルから、「作って、使って、循環させる」という社会への転換です。

そして、私たちにできることもあります。
・長く着られる服を選ぶ
・修理やお直しを活用する
・リセールや寄付を選択肢に入れる
・価格だけでなく価値で選ぶ

2026年7月は、ファッションの歴史における一つの転換点になるかもしれません。

その服が、最後まで大切にされる社会へ。
ESPRは、“捨てない未来”への静かな一歩なのです。

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